「学部ゼミナールでの学びに関する調査」結果報告
1. 目的
文系学部で開かれている専門教育としてのゼミナールに焦点を当て,学習者要因(受講動機,学習意欲), 学習環境の客観的側面(活動,教員による指導),学習環境の主観的側面(教員に対する評価,共同体意識), 学習成果(汎用的技能の成長実感,充実度)が相互にどのように関係しているかについて明らかにすることを目的とした.
図1 本研究の理論的枠組み
2. 方法
国立大学2校,私立大学11校の計13校において,人文科学,社会科学,総合科学系の学部で開かれていた講義またはゼミナール(演習)に出席していた学生を調査の対象とした.学部3,4年生が2010年度前期に受講したゼミナールでの活動と経験を調べるため,既存の尺度および予備調査の結果を踏まえて,計26問から構成される質問紙を作成し,実施した.調査の期間は,2010年9月30日(木)~11月26日(金)であった.
3. 分析の方法
計8の上位概念(受講動機・学習意欲・活動・教員による指導・教員に対する評価・共同体意識・汎用的技能の成長実感・充実度)に対する下位概念を明らかにするため,因子分析および主成分分析による尺度の構成を行った.次に,それぞれの下位概念間の関係を検討するために,得られた計16のうち14変数を用いて共分散構造分析を行った.
4. 結果
■尺度の構成
受講動機については2因子が抽出され,それぞれを「学習環境への期待(楽しさや魅力の期待)」,「成長の期待(学び得ることへの期待)」と解釈した.学習意欲については2因子が抽出され,それぞれを「協調志向(他者とのかかわりを通じて学ぼうとする意欲)」,「探究志向(知りたいことを学ぼうとする意欲)」と解釈した.
活動については3主成分が抽出され,それぞれを「共同活動(話し合いやグループ作業など能動的な取り組みが中心の学生主体の活動)」,「教員による知識伝達(教員による専門知の教授)」,「発表と議論(学生が知識や考えを伝達し,教員や他の学生がコメントや質問をする双方向型の活動)」と解釈した.教員による指導については1主成分が抽出され,「教員による指導(課題に関する具体的な指示や補足的な説明,アドバイスなど)」と解釈した.
教員に対する評価については2因子が抽出され,それぞれを「教員の姿勢に対する評価(親近感)」,「教員の能力に対する評価(信頼感)」と解釈した.共同体意識については2因子が抽出され,それぞれを「共同体の結束性に対する意識(学生同士が共に結びついているという意識)」,「共同体の互恵性に対する意識(相互に助け合いながら学ぶことができるという意識)」と解釈した.
汎用的技能の成長実感については3因子が抽出され,それぞれを「対人関係力の成長実感(他者の考えを理解し,協調した行動する力の成長実感)」,「問題解決力の成長実感(問題点を発見し,解決する力の成長実感)」,「情報リテラシーの成長実感(コンピュータを使って情報を集め,資料を作成する力の成長実感)」と解釈した.充実度については1因子が抽出され,「充実度(総合的な満足度)」と解釈した.
■共分散構造分析
図2 共分散構造分析
※点線は負の直接効果を,実線は正の直接効果を示している
5. 考察とまとめ
学習成果(汎用的技能の成長実感,充実度)に対する他の変数の影響についてまとめると,以下の4点に集約される.
- 「教員による指導」は,「対人関係力の成長実感」,「問題解決力の成長実感」,「情報リテラシーの成長実感」,「充実度」に対して強い影響力を持つ
- 「協調志向」は,「対人関係力の成長実感」,「問題解決力の成長実感」,「充実度」に対して,「探究志向」は,「情報リテラシーの成長実感」,「充実度」に対して強い影響力を持つ
- 「共同体の結束性に対する意識」は,「対人関係力の成長実感」,「充実度」に対して強い影響力を持つ
- 「教員による指導」は,「協調志向」,「探究志向」,「共同体の結束性に対する意識」に対して強い影響力を持つ
これらの点から,ゼミナールにおいては教員による指導が学習意欲や共同体意識を介して,学習成果に強い影響を与えていることが明らかになった.
ゆえに,教員は学生の学習成果を高めたいと考えるならば,以下に示す6項目のような指導を十分に行うことで,他者と協調しながら専門知を探求したいという意欲や,ゼミナールのメンバーとつながっているという意識を高める必要があるといえよう.
- 学生が達成すべき目標を明確に示す
- 課題の進め方について具体的な指示を出す
- テーマ設定についてアドバイスをする
- 文献の読み方についてアドバイスをする
- 課題に取り組む意義について説明をする
- 参考になる文献を紹介する